寝相のよしあしは人それぞれで、朝まで定位置を維持したままの行儀のよい人もいれば、布団(あるいはベッド)の上で朝を迎えることがないという奔放な人もいます。

まあ、寝相が悪くてもそれで特に支障がなければかまわないのでしょうが、睡眠中に隣で寝ている配偶者を殴ったり、近くにあるタンスや家電を蹴ったり、起き上がって徘徊したりするレベルになると、寝相が悪いというだけで済ませられるものではなく、自他の身の安全が脅かされることになります。

RBD(レム睡眠行動異常)

このような異常に寝相の悪い人の多くは、夢の内容に反応して体が動いてしまうことによって、こうした症状が起こっています。これを「レム睡眠行動異常(RBD:REM sleep behavior disorder)」と呼びます。

人間は起きている間は、脳の命令が神経を経て伝えられ全身の筋肉が動くようになっています。しかし、夢を見ているときにこの仕組みがはたらくと、夢の内容にしたがって眠ったまま体を動かしてしまうことになり、危険きわまりありません。そこで、通常、夢を見ている間(=レム睡眠中)は、脳から全身への連絡が遮断され、全身の筋肉は弛緩した状態になっています。

レム睡眠行動異常の患者の場合、原因はわかりませんが、レム睡眠中にもかかわらず、脳から全身への連絡がつながったままになっているため、夢の中での意思にしたがって手足が動いてしまうと考えられます。

RBDの薬物療法

レム睡眠行動異常に適応のある薬は今のところないので、薬物治療はすべて適応外処方になりますが、いくつかの選択肢が知られています。

第一選択はクロナゼパム(ランドセン、リボトリール)です。0.5~2mgを分1眠前または分2夕食後・眠前で服用するのが一般的です。クロナゼパムが具体的にどのような作用機序によってレム睡眠行動異常を抑制するのかはよくわかっていませんが、単に筋弛緩作用で手足に力を入らなくさせるというだけではなさそうです。クロナゼパムの服用により、患者の多くは異常行動が減るだけでなく、夢の内容が抗争的なものから楽しいものに変わったり、夢を見ること自体が減ったりすることから、情動興奮を抑制する作用が関係しているものと推測されます。

クロナゼパムはベンゾジアゼピン系ですから、筋弛緩作用による中途覚醒時のふらつき・転倒や翌朝以降の持ち越し効果に注意する必要があります。また、睡眠時無呼吸を悪化させる可能性があります。

クロナゼパムが使えない場合や無効な場合には、イミプラミン(トフラニール)などの三環系抗鬱剤やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、メラトニンなどが使われます。さらに、漢方の抑肝散がクロナゼパムと同等の有効性を示したという報告があります(漢方医学 Vol.37 No.1 2013 p22–25)。