前立腺肥大治療薬の比較

2013年7月15日

前立腺肥大


α1受容体のサブタイプと各薬剤の選択性

前立腺肥大症による排尿障害の治療薬として、現在もっともよく使われるのはα1遮断薬です。

α1受容体にはいくつかのサブタイプがあり、そのうち、前立腺平滑筋と膀胱平滑筋に分布しているα1Aとα1Dが前立腺肥大にともなう排尿障害や頻尿・関連痛に関与すると考えられます。ちなみに血管平滑筋にはα1Bが分布しています。

前立腺肥大に用いられるα1遮断薬のうち、エブランチル(成分名:ウラピジル)やミニプレス(成分名:プラゾシン)は特定のサブタイプへの選択性はないため、降圧薬としても使用されます。したがって前立腺肥大の薬として使うには、血圧低下による立ちくらみやふらつきの副作用が気になります。

これに対し、前立腺と膀胱への選択性が高いα1遮断薬として、ユリーフ(成分名:シロドシン)・ハルナール(成分名:タムスロシン)・フリバス(成分名:ナフトピジル)の3つがあります(昔はナフトピジルにはフリバスとともにアビショットという商品もあって併売になっていましたが、何年か前に販売中止となり、現在はフリバスのみとなっています)。この3種のα1遮断薬は、サブタイプへの選択性の点で違いがあります。

3種のうちで、α1Aへの選択性が最も高いのはユリーフで、α1A:α1D=55:1という極めて高い選択性でα1Aを阻害します。逆にα1Dへの選択性が最も高いのはフリバスで、α1A:α1D=1:4.8となっています。この中間がハルナールで、α1A:α1D=2.5:1です。

臨床上の効果の違い

さて、大事なのは、この選択性の差が臨床上の効果にどのような差をもたらすのか、ということです。

前立腺にはα1Aとα1Dの両方が存在しますが、どちらが多く存在するかは人によって異なります。α1Aのほうが多く存在する人にはα1Aへの選択性の高いユリーフがよく効くでしょうし、反対にα1Dのほうが多く存在する人にはフリバスのほうがよく効くでしょう。両者の中間の人にはハルナールが効くでしょう。したがって、ユリーフが効かなかった人がフリバスに変更したらよく効いたり、その逆もあります。また、前立腺におけるα1Aとα1Dの分布の割合はずっと一定なわけではなく、病気の進行などにより変化する可能性も指摘されており、そうであるとすれば、もともとはα1Aが多くてユリーフが効いていた人が、そのうちα1Dのほうが多くなってユリーフが効かなくなり、フリバスに変更したら効いた、ということもありえます。

さらに、α1Dは前立腺だけでなく、膀胱にも存在しています。これに対しα1Aはほとんど膀胱には存在していません。前立腺肥大による排尿障害の結果として、膀胱が過敏となり頻尿や関連痛が起こります。膀胱に存在するα1Dを阻害することでこれらの症状を抑制することができます。したがって頻尿などの膀胱刺激症状を抑えたければ、α1D阻害作用のあるフリバスかハルナールを使ったほうがいいということになります。ユリーフにはα1D阻害作用がほとんどないので、膀胱刺激症状の改善はあまり期待できないことになります(もちろん、排尿障害の改善によって膀胱への刺激は軽減されるので、ユリーフでも長期的には膀胱刺激症状も改善するかもしれません)。

サブタイプ選択性のデータからのちょっとした考察

最後に、上で述べたサブタイプ選択性についての表を載せておきます。薬剤ごとに各サブタイプに対する阻害定数Ki(nM)をまとめたものです。カッコの中は、α1Bを1とした場合の選択性の強さを表したものです。比較として前立腺・膀胱への選択性のないミニプレスも含めています。
α1遮断薬選択性比較
α1遮断薬の各サブタイプに対する阻害定数(nM)

この表を見るといろんなことが考察できます。α1A阻害薬であるユリーフのα1Aに対する阻害定数は0.039nM、これに対しα1D阻害薬であるフリバスのα1Dに対する阻害定数は4.4nMですから、その差はおよそ100倍です。ご存じのとおり阻害定数が小さいほど阻害作用が大きいことを示しています。これを反映して、フリバスの規格(25mg・50mg・75mg)はユリーフの規格(2mg・4mg)よりはるかに大きくなっています。ただ、100倍までにはなっていません。単純計算すれば、ユリーフと同じ強さにしようと思えば、フリバスは200mgとか400mgとかが必要になるような気がしますが実際には75mgが最大用量です。ひょっとしたらフリバスのほうがユリーフよりバイオアベイラビリティがよいので少なめの用量で済むのかもしれないと思い、添付文書の薬物動態を見てみたら、ユリーフ4mgの最高血中濃度は29ng/mLなのに対し、フリバス100mg(75mgのデータが掲載されていないので100mgのデータで見ます)の最高血中濃度は135ng/mLで、ユリーフの4~5倍にすぎません。阻害作用の強さが100分の1なのに血中濃度は4倍程度にしかならないのです。やっぱり少ない気がします。組織内の濃度は血中濃度とは異なるので、フリバスの組織移行性がユリーフよりはるかに高くて組織内濃度がユリーフの100倍くらいになっているという可能性もありますが、それよりも考えられるのは副作用の回避のため用量が抑えられているという可能性です。ヒントになるのはα1Bに対する選択性です。ユリーフではα1Aに対する選択性はα1Bと比較して162倍にもなりますが、フリバスのα1Dに対する選択性はα1Bと比較して1.78倍にすぎません。したがってフリバスの場合はユリーフと同等の阻害作用を示す用量を用いてしまうと、α1Bも阻害してしまい降圧による立ちくらみ・ふらつきの副作用がでてしまうと推測されます。実際には臨床試験で主作用と副作用のバランスを検討した結果、今の用量に落ち着いたのでしょう。