【備忘録】輸液療法・低Na血症概論
輸液製剤の基本
l 基本輸液製剤:水分・電解質バランスの改善・維持が目的
l 栄養輸液製剤:栄養成分の補給が目的
基本輸液製剤の基本中の基本の2剤
Ø 0.5%ブドウ糖液
Ø 生理食塩水(0.9%NaCl水溶液)
いずれも290mOsm/Lで血漿と浸透圧が等しい(=赤血球細胞内とも浸透圧が等しい)
赤血球細胞内の浸透圧=Na+(140mOsm/L) + Cl-(140mOsm/L) + α
もし水を輸液したらどうなるか?
l 血漿の浸透圧は即座に低下
l 一方、赤血球の浸透圧低下には少し時間がかかる
⇒赤血球内が血漿より高浸透圧に⇒赤血球内へ水分流入⇒赤血球破裂(溶血)
l 細胞にとって低張液は危険! 高張液にはある程度耐性がある(等張液~2倍高張液まで許容範囲)
5%ブドウ糖液が栄養輸液ではないワケ
5%ブドウ糖液1L中のブドウ糖は50g⇒エネルギー投与の意味は小さく、速やかに水とCO2に分解 = 「溶血しない水」と同じこと
輸液は投与後どこへどれだけ分布するか
l 細胞内液は体重の40%、間質液は15%、血漿は5%
l 血漿と間質液の間には血管内皮、間質液と細胞内液の間には細胞膜があり、物質の移動を制御している
l 血管内皮はタンパク質や多糖類は通さず、水や電解質は非選択的に通す
l 細胞膜にはチャネルや輸送体があり、電解質や水を選択的に通す
l Na+だけはNa+/K+-ATPaseのはたらきによりすべて細胞外へ汲みだされる
Ø アルブミン液1Lを点滴した場合
1Lすべてが血管内に分布する
Ø 生理食塩水1Lを点滴した場合
1/4が血管内、3/4が間質
Ø 5%ブドウ糖液1Lを点滴した場合
1/12が血管内に分布する
l 血管内のボリュームを増やす(血圧を上げる)効果は、アルブミン>生理食塩水>ブドウ糖液
l アルブミン液:血漿分画製剤。1L:10万円 高価!
l 手術時・大量出血時の血圧維持に関してアルブミン液と生理食塩水の比較では、一般的には予後は変わりがない⇒生理食塩水でアルブミンの代用可能
各種の輸液の特徴と使い分け
リンゲル液の分類
l 生理食塩水にK+とCa2+を添加したのがリンゲル液
l 血漿のpHは7.4、これに対し生理食塩水やリンゲル液はpH7.0⇒大量に輸液すると血漿pHが低下し、希釈性アシドーシスになる
l 希釈性アシドーシスを防ぐためリンゲル液にアルカリとして乳酸イオンを添加したのが乳酸リンゲル液
l 血漿では重炭酸イオンがアルカリの役割を果たしているが、リンゲル液に重炭酸イオンを添加するとCa2+と沈殿を形成してしまうため代わりに乳酸イオンが選ばれた(現在では技術が進歩し沈殿させずに重炭酸イオンを添加できるようになった)
(mEq/L) |
Na+ |
K+ |
Ca2+ |
Cl- |
アルカリ |
血漿 |
102 |
4 |
5 |
103 |
重炭酸イオン 24 |
生理食塩水 |
154 |
|
|
154 |
|
リンゲル液 |
147 |
4 |
5 |
156 |
|
乳酸リンゲル液 |
130 |
4 |
3 |
109 |
乳酸イオン 28 |
l 各種のリンゲル液
Ø 乳酸リンゲル液・酢酸リンゲル液・重炭酸リンゲル液:アルカリの種類が異なるだけでほぼ同じもの。ただし肝不全時は乳酸は避ける
Ø 加糖リンゲル液:マルトール、ソルビトール、ブドウ糖などを添加
l 生理食塩水 vs 乳酸リンゲル液
Ø 大量に使わなければ差はない(~2L/日くらいまで)
Ø 短時間に大量に使うと、生理食塩水は希釈性アシドーシスを起こす
1号輸液と3号輸液
l 本来の使用法
Ø 脱水患者に1号輸液から開始、尿量30mL/時まで継続⇒3号で維持
Ø 救急搬送の場合、心・腎機能が不明=脱水なのでNa必要だがNa高すぎるのもまずい、K入っているのもまずい
Ø とりあえずラインを取って1号液で輸液を開始する=「開始液」
水の出入りを考える
通常時
IN(mL) |
OUT(mL) |
飲水:1500 |
尿:1400 |
食事:1000 |
便:100 |
代謝水:200 |
汗:300 |
|
不感蒸泄:900 |
禁飲水食時
IN(mL) |
OUT(mL) |
飲水:0 |
尿:最低でも500 できれば1000~1500 |
食事:0 |
便:0 |
代謝水:200 |
汗:0 |
輸液:2000ほど必要 |
不感蒸泄:900 |
l 水分2Lを輸液で補充する場合・・・
Ø 生食2L⇒NaCl:18g!多い
Ø 生食500mL 1本+5%ブドウ糖液500mL
3本にKCl注射アンプル40mEq入れるとちょうどよい ⇒ 3号輸液(500mL)4本で同じ内容になる
Ø ただし3号輸液はNa濃度が35mEqと低いので、長期に使用すると低Na血症になる
Ø 4号輸液は3号をさらに低張にし、Kフリーにしたものなので、3号よりさらに低Na血症になりやすいため術後回復期には不適
低Na血症とその治療
低Na血症の分類
l 低Na血症の定義:血漿中のNa濃度が135mEq/L以下
l Na濃度は「体内Na量 / 体液量」で決まる。分子が減るだけでなく、分母が増えることによっても低Na濃度になる。実際には分母(体液量)増加による低Naの例のほうが多い
①
体液量過剰型:水もNaも両方多い
Ø 原因:浮腫、肝硬変、心不全、ネフローゼなど
Ø 治療:水・Naの摂取制限、利尿
②
体液量正常型:水が少し多くNaは正常
Ø 原因:SIADH、低張輸液、水中毒など
Ø 治療:水制限
③
体液量減少型:水もNaも両方少ない
Ø 原因:真のNa欠乏
Ø 治療:Na補充
細胞外液量を推定して①~③のどれかを判断して治療する
低Na血症の症状と治療
l 血漿のNa濃度が低下しても、しばらくは細胞内液のNa濃度は正常であるため、細胞内が細胞外に対して高浸透圧となり、細胞内へ水分が流入し細胞容積が増大
l 脳への影響が大きく、中等症で吐き気、嘔吐、見当識障害、重症では脳浮腫となり意識障害、昏睡、痙攣、循環・呼吸異常を呈する
l 脳浮腫の治療:3%NaCl水溶液を使用=生理食塩水の3倍⇒細胞外の浸透圧が上昇し、細胞外へ水分が出ていき細胞容積が減少
l 治療時にはODS(浸透圧性脱髄症候群)に注意
ODS(浸透圧性脱髄症候群)とその予防
l 低Na血症に対する生体防御反応として、細胞内外ともに低浸透圧に向かう⇒このときに急激にNaを補充すると、細胞外はNa正常・細胞内は低Naの状態が生じ、細胞容積が減少して脱髄(神経線維を覆う髄鞘の変性・脱落)が発生=浸透圧性脱髄症候群(ODS)
l ODSの予防:ゆっくり補正する。血漿Na濃度の正常値ではなく、Na濃度5mEq/L上昇をTargetとする。3%NaCl水溶液はまず100cc投与し、その後は様子を見ながら追加する。
バソプレシン(ADH)とSIADH
バソプレシン(抗利尿ホルモンADH):V2受容体に結合すると水の再吸収を促進する
l 水分調節のメカニズム
血漿Na濃度上昇
⇩
浸透圧受容体を刺激
⇩
・口渇中枢刺激→飲水行動
・バソプレシン分泌→水再吸収促進
l 血漿浸透圧の正常値:280~290 mOsm/L
Ø 280以下:ADH分泌なし
Ø 280~:ADHの分泌少しある
Ø 290~:ADHが本格的に分泌 ⇒ 水再吸収↑により血漿浸透圧↓
l SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群):血漿浸透圧280以下でもADHが分泌されるなどADHの分泌が不適切
Ø 原因:異所性のADH分泌(ガンなど)、下垂体からの分泌異常
Ø 治療:水分制限、トルバプタン投与(添付文書上、入院下での開始が必要)
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