【備忘録】脳卒中の外科治療と薬物治療
脳卒中の分類
脳梗塞
①アテローム血栓性脳梗塞:30%
太い頭蓋内血管や頚部頸動脈が動脈硬化により狭窄
②心原性脳塞栓症:28%
心房細動により心臓で形成された血栓が太い脳血管へ運ばれ、脳血管を急激に完全に閉塞→大梗塞になりやすい ”ノックアウト型”
③ラクナ梗塞:28%
頭蓋内血管から脳の深部へ伸びる細い血管(穿通枝)に血栓が生じて閉塞→比較的軽症
④その他の脳梗塞:14%
脳出血
くも膜下出血
脳梗塞の趙急性期治療
2005年までは治療法なし
静注血栓溶解療法
2005年、rt-PA(遺伝子組み換え型組織プラスミノーゲンアクチベーター:アルテプラーゼ)の認可により静注血栓溶解療法が登場(脳梗塞の病型を問わない)
rt-PA(アルテプラーゼ):血栓上のプラスミノーゲンを活性化してプラスミンに変換し、プラスミンが血栓を形成しているフィブリンを分解することで血栓が溶解される
アルテプラーゼの限界:①発症から4.5時間以内しか使えない ②冠動脈に比較して脳血管の再開通率が低い。冠動脈8割、脳血管2~3割。特に心原性塞栓症の再開通率が低い
機械的血栓回収療法
2014年、ステントリトリーバーの登場→機械的血栓回収療法
心原性脳塞栓症が主対象、アテローム血栓性脳梗塞も一部対象、ラクナ梗塞には使えない
①病変部位へガイドワイヤーを通す ②ガイドワイヤーにしたがって血栓の中へステントを送り込む ③ステントを広げて血流再開通 ④ステントと一緒にステントが食い込んだ血栓を回収する
発症から6~8時間以内が原則だが、MRI所見によっては24時間までは考慮できる。発症後4.5時間以内であればrt-PAと併用する。
日本での機械的血栓回収療法の実施件数は2016年の7701件から2020年には15793件に倍増
脳梗塞の予防的治療
心原性脳塞栓症の予防(1次予防・2次予防)
CHADS2スコアで1点(中リスク)・2点(高リスク)→抗凝固療法が必要
経口抗凝固薬:ワルファリンとDOAC
ワルファリン:血液凝固因子Ⅱ(プロトロンビン)・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹの産生に必要なビタミンKを阻害。ビタミンK含有食品の影響(納豆不可)。定期的なPT-INRのモニタリング必要。重大な出血性合併症のリスクあり
DOAC:Xa因子阻害(エドキサバン《リクシアナ®》・アピキサバン《エリキュース®》・リバーロキサバン《イグザレルト®》)・トロンビン阻害薬(ダビガトラン《プラザキサ®》)
ワルファリン vs DOAC:DOACは効果でワルファリンに非劣性、重大出血の発生はワルファリンより有意に少ない
「脳卒中治療ガイドライン2021改訂2023」:NVAF(非弁膜症性心房細動)ではDOAC使用可能な場合、ワルファリンよりDOAC使用を推奨。機械弁置換術後の患者にはDOACを使用せずワルファリンを使用することを推奨。生体弁の場合はNVAFと同じ
DOACは腎排泄のため、腎機能低下の場合に減量必要。CCr<15・透析導入後は禁忌。ワルファリンは肝代謝のため、CCr<15でも投与可能。透析導入後は原則禁忌だが、実際には使われる
出血リスクのため標準用量のDOAC投与が困難な場合は?→エドキサバン15㎎ vs プラセボ の試験で、低用量エドキサバンは脳卒中・全身塞栓症を有意に抑制し、重大出血の発生は有意差がなかった
抗凝固療法中の頭蓋内出血①ワルファリンの場合
古典的対応:ビタミンK・FFP(新鮮凍結血漿)の投与→ビタミンKを補充しても凝固因子が産生されて効果が出るまで半日以上かかる。FFPは大量・長時間に投与しないと効果がない
4-Factor PCC(PPSB®-HT静注用):血漿から第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ凝固因子を濃縮し加熱処理した製剤。FFPよりはるかに少量・短時間で効果出るが、保険適応は血友病B患者のみのため適応外使用となり、高額な薬剤費が病院持ち出しとなる。また適応がないため、抗凝固療法中の出血に用いる場合の用量が定められておらず、現場の医師のさじ加減で投与されていた
2017年、ケイセントラ®静注用が承認:PPSB®-HTと中身はほぼ同じだが、抗凝固療法中の出血に保険適応となり、用法用量が定められた
患者の半数のPT-INRが正常化するまでにFFPでは約1日かかるが、ケイセントラ®では1時間以内。投与時間は1/7、投与総量は1/8で済む。
抗凝固療法中の頭蓋内出血②DOACの場合
ダビガトランの場合→中和抗体イダルシズマブ(プリズバインド®)を投与
アピキサバン・リバーロキサバン・エドキサバンの場合→中和抗体アンデキサネット アルファ(オンデキサ®)を投与
非心原性脳梗塞の予防的治療
外科的治療①頚動脈内膜剥離術(CEA)
頚動脈の狭窄の原因になっているプラークを削り取ってしまう
直視下で動脈を遮断して手術するため、プラークのかけらによる遠位塞栓リスクは少ない
全身麻酔が必要なため、心筋梗塞リスクがある
エビデンス:50%以上の症候性病変では、内科治療よりCEAのほうが全てのStrokeまたは手術死亡の発生率が有意に低かった
ガイドライン:70%以上の高度狭窄では内科治療に加えてCEA実施を推奨、50%以上の中等度狭窄では内科治療に加えてCEA実施が妥当
狭窄率だけでなくプラークの安定性も重要:同じ狭窄率でも、脂質コアを包む線維性皮膜が厚いプラークは破裂リスクが小さく安定している。線維性皮膜が薄く大きな脂質コア内にマクロファージが浸潤したり出血したりしているプラークは不安定で破裂しやすく、破裂部分に血栓ができ梗塞となる→MRIによるプラーク性状評価が必要。脂肪抑制T1 highのプラークは不安定プラーク
外科的治療②頚動脈ステント留置術(CAS)
狭窄部分をバルーンで押し広げ、ステントを留置して再狭窄を防ぐ
低侵襲で局所麻酔でよい
プラークを圧壊するため、壊れたプラークのかけらが遠位血管に流れていって塞栓をおこす危険があるので、病変部の遠位側にフィルターを設置してプラークのかけらをキャッチし、術後に回収するが、遠位塞栓リスクはゼロではない
CEA vs CAS
CREST試験:CEAでは心筋梗塞の発生率が高く、CASでは塞栓性脳梗塞の発生率が高かったが、4年間のイベント総発生率に有意差はなかった→CEA低危険群でもCASはCEAに非劣性
ガイドライン:高度狭窄ではCEAの危険因子を持つ症例ではCASの実施が妥当。CEAの危険因子を持たない症例でもCASの実施を考慮してもよい
内科的治療①抗血小板療法
従来の問題点:アスピリン・チエノピリジン系に対するlow responderの存在
アスピリン:NSAIDsの使用や肥満による吸収性低下、血小板におけるCOX-2発現ターンオーバーの加速、糖尿病などにより効果低下
クロピドグレル:CYP2C19による活性化が必要→CYP2C19の活性が低いPM(Poor Metabolizer)には効かない。日本人の2割程度がPM
2014年プラスグレル(エフィエント®)販売開始、2021年脳梗塞への適応追加:CYP2C19による活性化不要のため遺伝子多型を考慮する必要なし
現在の非心原性脳梗塞再発予防抗血小板療法:急性期 DAPT(アスピリン+クロピドグレル or アスピリン+シロスタゾール or アスピリン+プラスグレル)3週間~1ヶ月 → 慢性期 SAPT(アスピリン or クロピドグレル or シロスタゾール or プラスグレル)
頚動脈の狭窄が完全閉塞に移行した場合
対側や後方循環からの側副血行が血流を補填できるが、側副血行路の発達度合いには個人差があり、不十分な場合には血行力学的機序による脳梗塞リスクが生じる
→頭蓋外-頭蓋内バイパス手術(EC-IC bypass):頭皮の血管を切り取り、頚動脈につないで閉塞部分の迂回路を作成し脳の血流を改善する
くも膜下出血の治療
くも膜下出血
病態:脳動脈瘤が破裂→くも膜下腔に血液が充満→頭蓋内圧上昇→脳循環不全→脳組織破壊
症状:突然の激烈な頭痛・激しい嘔吐・意識障害
生きて救急に運ばれてくる患者は、破裂した動脈瘤に血栓ができて一時的に止血した状態→この血栓が取れて再破裂すると致死的。これを防ぐのが急性期治療の目的
急性期治療
脳血管撮影(カテーテル検査)もしくはCT血管造影で出血源の動脈瘤を確定(単純CT画像だけではどの動脈瘤が破裂したかはわからない)→確定した動脈瘤を治療する
ネッククリッピング術:開頭して動脈瘤の根元をチタン製のクリップでとめる
コイル塞栓術:マイクロカテーテルを使ってプラチナ製のコイルを動脈瘤内へ充填していく。それ以上入らなくなるまで、何本もコイルを詰める。開頭不要だが根治性では劣る
くも膜下出血後の脳血管攣縮の治療
くも膜下出血の発症後4~7日に、破裂した脳動脈瘤近傍の主幹動脈の攣縮が起こり、1~2週間持続する→片麻痺・失語・認知機能障害などの神経学的後遺症が残り、死亡することもある
既存治療薬:ファスジル(Rhoキナーゼ阻害薬)・オザグレル(TXA2合成酵素阻害薬)→あまり効かない
ニモジピン(Nimodipine):Ca拮抗薬。効果あるが国内未承認
2022年4月クラゾセンタン(ピヴラッツ®)登場:エンドセリン受容体拮抗薬。血管平滑筋を収縮させるCa2+依存的経路とCa2+非依存的Rhoキナーゼ経路の両経路の起点となるエンドセリン受容体へのET-1の結合を阻害することで、血管平滑筋を弛緩させる
クラゾセンタンの副作用:体液貯留作用による胸水・肺水腫→補液は最小限に抑える
従来はくも膜下出血後は大量補液が必要だったが、クラゾセンタンを使用する場合は発想の転換が必要
未破裂脳動脈瘤の治療
経過観察中に破裂する未破裂動脈瘤もあれば、長期にわたり不変の未破裂脳動脈瘤もある
UCAS Japan研究(2001~2004):未破裂脳動脈瘤全体での破裂率は約1%/年。大きいほど破裂しやすく、前交通動脈瘤・後交通動脈瘤、いびつな形の動脈瘤も破裂しやすい
未破裂動脈瘤を治療するかどうかは、破裂リスクと治療合併症リスクとを比較して決める
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