お肌のサプリとして、人々がまず思い浮かべるのがコラーゲンだと思います。市場には無数のコラーゲン関連商品があふれており、その市場規模は、500~600億円にのぼるそうです。また、グルメ番組などでは、コラーゲンを多量に含む食材が取り上げられると、リポーターは「これでお肌がプリプリになりますね」などと喜色満面でコメントしています。
しかし、多少なりとも知識のある人なら、「コラーゲンを食べたって肌のコラーゲンになるわけないやろ、アホか」と思ってしまうはずです。この感想自体はいたって真っ当なものです。では、コラーゲンを経口摂取しても何の効果もないのか、といわれると、どうも、そうは言い切れないようなのです。・・・・

まず、基本的なことからおさらいします。

私たちが食べたものは、口から食道、胃、十二指腸、小腸へと運ばれていく過程でさまざまな酵素の力によって、より小さな物質へどんどん分解されていきます。大きいままでは体内に吸収できないからです。これが消化です。

コラーゲンはタンパク質です。タンパク質は消化によってアミノ酸やジペプチド、トリペプチドまで分解されてから吸収されます。アミノ酸というのはタンパク質の構成単位で、アミノ酸が何十、何百、何千と集まってタンパク質になります。ジペプチドというのはアミノ酸が2つ結合したもの、トリペプチドというのはアミノ酸が3つ結合したものです。つまり、コラーゲンも最終的に1~3個のアミノ酸単位にまで分解されてから体内へ入っていくわけです(もちろん消化が間に合わず、分解が不十分なまま吸収されずに糞中へ排出されるコラーゲンもあるでしょう)。したがって、口から食べたコラーゲンがそのまま吸収されて肌のコラーゲンになるなんてことは当然ありません。

でも、分解産物は吸収されるのだから、それを原料にしてコラーゲンがどんどん作られるのでは?と期待する人もいるかもしれませんが、残念ながら、それもありません。
生物の体内にはさまざな物質が存在しますが、それらの合成経路は決まっています。自らの分解産物を再利用する合成経路を持つ物質も確かにあります。核酸がその代表でしょう。このような再合成経路を専門用語ではサルベージ回路と呼びます。コラーゲンにはサルベージ回路はないので、小腸から吸収されたコラーゲン由来ペプチドが体内のコラーゲン合成に直接使われることはありません。

以上のことを踏まえると、コラーゲンを摂取しても何の効果もないのね、とがっかりするかもしれませんが、ここまでは前置きで、ここからが本題ですので、落ち込まずにもう少し読んでください。

実は近年、コラーゲン由来ペプチドの効果を実証するさまざまな研究結果が発表されるようになってきました。もちろん、そのすべてが信頼性の高いものとはいえませんが、それなりのレベルのエビデンスは出てくるようになりました。

一番最近の研究結果では、マウスにコラーゲン加水分解物を経口摂取させた上で、その皮膚に紫外線B波を照射したところ、コラーゲン加水分解物を摂取したマウスは、摂取していないマウスに比べて皮膚機能の障害が抑制された、というものがあります(Oba C. et al.:Collagen hydrolysate intake improves the loss of epidermal barrier function and skin elasticity induced by UVB irradiation in hairless mice, Photodermatol. Photoimmunol. Photomed., 29(4), 204–211, 2013)。あくまでマウスでの結果であり、これがそのままヒトに当てはまるかどうかはまだわかりませんし、紫外線による障害を抑制しただけで、すでに老化した皮膚を回復させたわけでもありません。ですが、皮膚の老化の最大の原因が紫外線であることを考えれば、その紫外線による障害を抑制できるとすれば、これは大変な効果だといえます。なにより、コラーゲン由来ペプチドが何らかの生理活性を持つということを濃厚に暗示しています。

上で述べたように、コラーゲン由来ペプチドが直接、新たなコラーゲンの合成に使われるわけではありません。では、コラーゲン由来ペプチドはどういうメカニズムでマウスの皮膚障害を抑制したのでしょうか。

そのヒントになる実験結果が、何年か前に出ています。マウスの線維芽細胞を使った実験において、コラーゲンの分解産物として生じるジペプチド、Pro-Hyp(プロリルヒドロキシプロリン:プロリンとヒドロキシプロリンという2つのアミノ酸が結合したもの)を培養液に添加すると、線維芽細胞の増殖が促進されたのです(Shigemura Y. et al.: Effect of prolyl-hydixyproline (Pro-Hyp), a food-derived collagen peptide in human blood, on growth of fibroblasts from mouse skin, J.Agric.Food Chem., 57, 444–449, 2009.)。線維芽細胞というのは、真皮などに存在してコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸などを産生する細胞です。つまりコラーゲンの分解産物によって、コラーゲンを産生する細胞の増殖が促進される、ということです。もちろん、この実験も、あくまで試験管の中での、しかも、マウスの細胞での結果ですから、そのまま人体に当てはまるとは限りませんが、十分に理にかなった結果だといえます。Pro-Hypというジペプチドはコラーゲンの分解産物にしか存在しないペプチドですので、この物質がコラーゲンの分解と減少を知らせるシグナルの役割を果たし、減少したコラーゲンを補うために線維芽細胞の増殖を促してコラーゲンの産生を増加させる、というメカニズムが存在しても何の不思議もないのです。

Pro-Hypがヒトでもマウスと同様の効果を持つのか、線維芽細胞の増殖を促進する詳細な作用機序はどのようなものなのか、Pro-Hypの過剰摂取で線維芽細胞が異常増殖したりはしないのか、などまだまだ不明な点ばかりですが、Pro-Hypを含むコラーゲン由来ペプチドが何らかの生理活性を持つらしいことは否定できないのではないかと思われます。以前は「コラーゲンでお肌がプリプリ」などと言っている人のことは鼻で笑っていましたが、今では自らの不明を恥じ、反省している次第です。

Originally published at www.hankeidou.net September 8, 2013.