頭痛の基本

頭痛は以下のように分類できます。
  • 症候性頭痛(二次性頭痛):脳や体に病気があってそれが原因で起こる頭痛。脳血管障害による頭痛や脳腫瘍による頭痛、風邪やインフルエンザなど感染症による頭痛、急性緑内障発作による頭痛など
  • 機能性頭痛(一次性頭痛):基礎疾患のない頭痛。
  • 片頭痛:血管の拡張と炎症が原因で起こる。脈拍と一緒にズキンズキンという拍動性の痛みが出るが、時間が経過すると持続性の痛みとなる。体を動かすと痛みは憎悪する。多くが悪心・嘔吐をともなう。
  • 緊張性頭痛:頸部や側頭部の異常な筋収縮が原因で起こる。頭部を圧迫、締め付けられるような痛み。体を動かすことで痛みが憎悪することはなく、むしろ軽減することが多い。
  • 群発頭痛:1~数年に数回程度、1~3ヶ月続く「群発期」があり、この期間ほぼ毎日、片側の眼の奥とその周囲に想像を絶するほどの激しい痛みが短時間(数分~2時間程度)出現する。メカニズムは必ずしも明らかではないが、血管の拡張が関わっていると考えられている。

このページでは、以下、片頭痛を中心に扱います。

片頭痛の特徴

  • あらためて片頭痛の特徴を整理します。
  • ズキンズキンと脈打つような痛み
  • 片側性もしくは両側性でも左右で痛みに差があることが多い
  • 放置した場合、痛みは数時間~2,3日続く
  • 頭痛発作時には悪心・嘔吐をともなうことが多い
  • 光や音、においなどの刺激で痛みが強まることが多い
  • 閃輝暗点(ギラギラ輝く歯車のようなものが見える)などの前兆をともなうこともあるが、前兆のない人のほうが多い
  • 体を動かすと痛みが憎悪するので、頭痛発作時は動けない
  • なんらかのストレスから解放されたタイミングで起こることが多い
  • 痛みの発作が起きてから時間が経過すると、通常は痛みには感じないほどの弱い刺激やただの接触だけで痛みを感じるようになることが多い。これをアロディニア(allodynia:異痛症)という。

これだけきちんとした特徴があれば、片頭痛と他の頭痛の区別は簡単かと思われがちですが、そうでもありません。たとえば、緊張性頭痛はストレスがかかっている最中に起こることが多く、片頭痛はストレスから解放されたタイミングで起こります。この両者の区別は言葉で書けば明確ですが、実際には本人自身区別がついていないことが多く、片頭痛の人が「ストレスがあると頭が痛くなります」と申告して、「ストレスがかかっているときに起こる⇒緊張性頭痛だな」と診断されてしまうこともあります。また、緊張性頭痛は頸部の異常な筋収縮がかかわっているので痛みの最中に締め付けられるような肩凝りを感じることが多いのですが、片頭痛の場合も、頭痛発作の起こる1時間くらい前に普通と違う肩凝りが起こることがあるほか、痛みの極期以降、脊髄反射によるうなじ~後頭部の筋収縮が起こります。この肩凝り(のような症状)が緊張性頭痛にともなう肩凝りと勘違いされ、片頭痛なのに緊張性頭痛と診断されてしまうことがあります。さらに、実際は片頭痛と緊張性頭痛の両方を持っている人も少なくはなく、余計に話がややこしくなります。

片頭痛発作のメカニズム

片頭痛発作の起こるメカニズムはまだ完全には解明されてはおらず、いくつかの説があります。古典的な説が「血管説」、近年、優位な説が「三叉神経血管説」です。

○血管説

片頭痛発作のおこる仕組みと、片頭痛予防薬やトリプタン製剤の作用メカニズムを考える際に、非常にわかりやすい説です。血管説に基づけば、片頭痛発作は以下のような仕組みで起こります。
  1. ストレスなどにより、血中のカテコールアミンや遊離脂肪酸が増加し、それにより、血小板が活性化される。
  2. 活性化された血小板がセロトニン(5-HT)を放出し、それが血管に存在する5-HT1B受容体を刺激して血管を収縮させる。
  3. 血小板から放出されたセロトニンは他の血小板からのセロトニン放出も促すので、さらに血管の収縮が進む。血管収縮による血流減少の結果、閃輝暗点などの前兆症状が生じる。
  4. しばらく時間がたつと血小板のセロトニンは枯渇し放出が止まる。放出されたセロトニンも分解されて血中のセロトニン濃度が急激に低下する。血管を収縮させていたセロトニンが消滅することで、反動として異常な血管拡張が起こる。
  5. 拡張した血管は血管周囲の神経を刺激し、拍動性の痛みが生じる。

血管説は非常にわかりやすい説ですが、セロトニン濃度の変化は全身で起きているのに、なぜ頭部の血管のみで上記の反応が生じるのかという疑問が残ります。

○三叉神経血管説

片頭痛を三叉神経血管系を介して起こる神経原性炎症ととらえる説です。血管説ほど簡潔ではありませんが、血管説で説明しきれない点も説明することができます。
  1. 「なんらかの刺激」により、頭蓋内血管の三叉神経終末が刺激される。
  2. 刺激を受けた三叉神経終末から発痛物質サブスタンスPやCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)などが放出される。
  3. CGRPの作用により血管の拡張、血管透過性の亢進が起こり、血漿タンパクの血管外漏出、肥満細胞の脱顆粒(肥満細胞が中にたくわえているヒスタミンやロイコトリエン、プロスタグランジンなどの物質を放出すること)によって神経原性炎症が引き起こされる。
  4. この三叉神経の興奮は中枢へ伝達され、悪心・嘔吐などの脳幹の反応や種々の自律神経系の反応を引き起こす。

血管説では、血管の拡張が原因となって神経を刺激し痛みが生じる、という見方ですが、三叉神経血管説では逆に、先に神経の興奮があってその結果として血管が拡張するという見方です。では、その三叉神経終末の興奮を引き起こす「なんらかの刺激」とは何かということが問題になりますが、その正体は「皮質拡延性抑制」と呼ばれる現象ではないか、というのが現在のところ有力な説です。皮質拡延性抑制とは、脳皮質のある場所で一過性に神経が過剰興奮したあと、しばらく神経活動が抑制されて脳波が平坦化するとともに、その過剰興奮とその後の抑制現象がその場所から脳皮質全体へと少しずつ拡大していく現象です。皮質拡延性抑制は後頭葉から始まることが多く、そこから頭頂葉にむかって進行していきます(速度約2~3mm/分)。三叉神経血管説では、この皮質拡延性抑制が脳の腹側面の血管壁に存在する三叉神経終末を刺激することで片頭痛発作が始まると考えます。そして、後頭葉から始まった皮質拡延性抑制が脳の腹側面の三叉神経終末まで到達するまでの段階が片頭痛の前兆段階にあたると考えます。片頭痛持ちの人は、何らかの理由でこの拡延性抑制が起こりやすくなっている、つまり脳が興奮しやすくなっていると考えられます。

片頭痛の治療薬

片頭痛の治療薬は、すでに起こった片頭痛発作を抑える急性期治療薬(頓挫薬)と、発作が起こらないようにする予防薬に分けられます。

<急性期治療薬>

○非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)およびアセトアミノフェン

いわゆる解熱鎮痛剤です。プロスタグランジンの合成阻害により痛みを抑えますが、片頭痛の発症メカニズムを抑えることはありません。片頭痛に限らず緊張性頭痛にも効果があります。NSAIDsは胃粘膜の分泌も抑制するので胃が荒れやすくなるため、空腹時の服用は勧められませんが、片頭痛時は吐き気・嘔吐でとても食事ができる状態ではないことが多いことが難点となります。アセトアミノフェンはNSAIDsと比べると、末梢のプロスタグランジン合成は強くは阻害しないとされるので、理論上はそれほど胃を荒らさないはずです。NSAIDsもアセトアミノフェンも片頭痛発作が進行してしまうと効かなくなってしまうので、早期に服用することが必須となります。NSAIDsもアセトアミノフェンも使いすぎると薬物濫用性頭痛というものが起こります。これは薬の使いすぎによって痛みの閾値が下がってしまって痛みに過敏となってしまった状態です。片頭痛発作が起こっていないのに薬が切れただけで痛みが起こるようになります。これはもはや片頭痛ではありませんので、別の治療が必要となります。NSAIDsやアセトアミノフェンの場合、月に15日以上使用する状態が3ヶ月以上続くと薬物濫用性頭痛の危険があります。

○エルゴタミン製剤

トリプタン製剤が出てくる前は片頭痛治療によく使われていましたが、今では非常に限られた場合にしか処方されません。強力な血管収縮作用により片頭痛発作で異常拡張した頭蓋内血管を収縮させて効果を示します。トリプタンに比べるとはるかに安価ですが、片頭痛発作の早期に服用しないと効果がなく、前兆期の服用が勧められます。吐き気・嘔吐の副作用があるため、片頭痛自体による吐き気・嘔吐を悪化させてしまいます。また頭部血管への選択性が低いため冠血管・末梢血管へのリスクも高くなります。トリプタン製剤とは24時間併用禁忌のため、エルゴタミン製剤を使って効果なかったのでトリプタンを使う、という使用方法ができません。ここがトリプタンとの併用が可能なNSAIDsとの大きな違いであり、使いにくい点です。NSAIDsと同様に過剰使用で薬物濫用性頭痛を起こします。

○トリプタン製剤

トリプタン製剤は、現在では片頭痛急性期治療の主流となっています。作用機序は5-HT1B/1D受容体の刺激です。血管に存在する5-HT1B受容体を刺激することで異常拡張した血管を収縮させるとともに、三叉神経終末に存在する5-HT1B/1D受容体を刺激して神経終末からのサブスタンスPやCGRPの放出を抑制します。NSAIDsと異なり、片頭痛発作の発症メカニズムそのものをおさえるので、非常に有効で、痛みの最盛期を含むどの時期に服用しても効果がありますが、緊張性頭痛には全く効果がありません。単なる「痛みどめ」ではなく「片頭痛治療薬」なのです。トリプタン製剤には以下のような特徴があります。
  • 前兆期に服用しても多くの場合、無効です。前兆期にはまだ頭蓋内血管の拡張も三叉神経終末からの痛み物質の放出も起こっておらず、作用のしようがないからです。三叉神経血管説にしたがえば、前兆期は皮質拡延性抑制が進行している時期ですが、トリプタン製剤には、この皮質拡延性抑制を止める効果はないということです。
  • トリプタンは片頭痛発作のどの時期でも有効とされますが、早期に飲んだほうがより効果的なのは確かです。痛みが起きたらすみやかに服用するのがコツです。NSAIDsと異なり胃を荒らすこともないので空腹時でも気にする必要はありません。痛みが始まってから時間が経過しアロディニア(allodynia)が起こってしまうと、効きが悪くなります。トリプタン服用後2時間での頭痛消失率はアロディニア出現前の服用で93%、出現後では15%に落ちるというデータもあります。
  • 現在、日本で承認されているトリプタン製剤はイミグラン(錠・注・キット皮下注・点鼻液)・ゾーミッグ(錠・RM錠)・レルパックス(錠)・マクサルト(錠・RPD錠)・アマージ(錠)の5種類。RM錠、RPD錠というのはいずれも口腔内崩壊錠で、水なしで服用できます。口腔内崩壊錠や点鼻液、注射剤などの剤形があるのは、片頭痛時には吐き気・嘔吐がおこり、普通の錠剤を水で飲み下すのが難しくなることが多いからです。効果の強さはイミグラン≧ゾーミッグ>マクサルト>レルパックスだという話もありますが、個人差が大きいのでこの比較はあまり意味がありません。むしろ相性のほうが重要で、あるトリプタンが無効でも他のトリプタンに変更すると効果が出るということは多くあります。
  • NSAIDsと同様に、過剰使用によって薬物濫用性頭痛が起こります。月に10日以上使用することが3ヶ月以上続くというのが目安とされます。これを防ぐため、月に8~10日以上片頭痛発作が起こる場合には、片頭痛予防薬を服用して発作の回数を減らすことが必要になります。
  • 緊張性頭痛と片頭痛の両方を持っている人は結構います。頭痛の早期でどちらの頭痛かわからない段階にはまずNSAIDsやアセトアミノフェンを服用し、服用後30~60分経過して頭痛がおさまらずひどくなってきたら(あるいは片頭痛だと判明した時点で)トリプタンを服用するという使い方をすることが多いです。これは、NSAIDsが奏功するには早期の服用が必須であること、これに対しトリプタンは片頭痛発作のどの時期でも効果が期待できることを反映しています。
  • 女性の場合、月経時片頭痛という特徴的な片頭痛があり、女性ホルモンの急激な変動が関与していると考えられています。トリプタン単独では無効の場合が少なくなく、そのような場合、トリプタンとNSAIDsを併用することで奏功することがあります。
  • 片頭痛は子供にも起こります。子供の片頭痛は痛みの立ち上がりが早く、持続時間が短いのが特徴です。また、頭痛そのものは訴えず、吐き気、嘔吐、腹痛などの症状のほうを強く訴えることも多くあります。トリプタンは「小児等に対する安全性は確立していない」となっていますが、実際には使用例は徐々に増えてきています。小児の片頭痛は痛みの立ち上がりが早いので、一番即効性のあるイミグラン点鼻液がよく使われます。また吐き気や嘔吐の症状を訴えることが多いため、口腔内崩壊錠が薬に立ちます。

○制吐薬

片頭痛発作時には、多くの場合、悪心・嘔吐がともないます。このため制吐薬(吐き気止め)を使用します。悪心・嘔吐はその症状自体が苦痛であるだけではなく、片頭痛治療薬の吸収の遅延・阻害をもたらし、結果として治療薬の効果を失わせてしまいます。トリプタン無効例のうち、少なからぬ割合がこの吸収不全によるものではないかと言われています。自覚症状として悪心・嘔吐を訴えない場合でも消化管の機能不全は起こっていることがあるので、トリプタン製剤を服用する際は併用したほうがよいと考えられます。
さらに、ナウゼリンやプリンぺランなどの制吐薬には次の片頭痛発作を頓挫させる効果もあるらしいと言われています。おそらく皮質拡延性抑制の出現・進行を抑えているのではないかと考えられます。

<片頭痛予防薬>

片頭痛発作治療薬を服用する機会が増えると薬物濫用性頭痛の危険が高まるため、片頭痛の発作が起こる前に予防することが必要になります。そのために用いるのが片頭痛予防薬です。

○カルシウム拮抗薬

カルシウム拮抗薬は血管平滑筋細胞のカルシウムチャネルをブロックすることで細胞内へのカルシウムイオンの流入を阻害し、血管平滑筋の収縮を抑制することで血管を拡張させます。血管説によれば片頭痛の起こる前に血管の収縮が起こり、その反動で血管が異常拡張して片頭痛発作になるとされます。カルシウム拮抗薬は、この血管収縮を抑えることでそのあとに来る異常拡張を予防するものです。また三叉神経血管説で片頭痛発作の引き金と考えられる拡延性抑制には各種イオンの細胞内外濃度の変動がともないますが、カルシウムイオンの細胞内濃度の上昇も観察されます。カルシウム拮抗薬は細胞内へのカルシウムイオンの流入を阻害することで、拡延性抑制を抑制するものと考えられます。
  • テラナス・ミグシス:同一成分(ロメリジン)の併売品です。片頭痛予防の適応があり、最もメジャーな片頭痛予防薬と言ってもいいでしょう。ほかのカルシウム拮抗薬と異なり、脳血管への選択性が高いため、降圧薬としての適用はありません。効果が出てくるまでに1ヶ月くらいかかると言われますが、短期予防(月経やストレス、運動などが要因で片頭痛発作のおこりそうな期間がわかっている場合に、その期間だけ予防する)として、3日~1週間だけ使用するという使い方もあるようです。後述のインデラルなどβ遮断薬と併用するという例もあるようですが、あまり見ません。前兆時の頓服によりその後の片頭痛発作を予防できたという報告もあります。
  • ワソラン・ヘルベッサー:ワソランの適応は不整脈と虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)のみ、ヘルベッサーの適応は高血圧と狭心症のみでいずれも片頭痛予防の適応はありませんが、脳血管の拡張作用もあるため適応外でよく用いられます。テラナスと異なり、心筋細胞のカルシウムチャネルに対しても阻害作用があり心臓の収縮を抑制する効果があるので(この効果があるので狭心症や不整脈に用いられるのです)、片頭痛予防目的の場合は同じ心抑制作用のあるβ遮断薬との併用はできるだけ避けるべきとされます。

○抗セロトニン薬

セロトニンの作用を阻害することで片頭痛発作の前段階である血管収縮を抑制します。
  • ミグリステン:片頭痛とともに緊張性頭痛にも適用があります。
  • ペリアクチン:片頭痛への適用はありませんが、シロップ剤があるということもあって小児の片頭痛予防に特によく使われるようです。

○β遮断薬

通常は高血圧や狭心症などに用いる薬で片頭痛への適用はありませんが、インデラルを筆頭に適用外で用いられます。予防のメカニズムははっきりしません。インデラルはトリプタンのうちのマクサルトと併用禁忌なので注意が必要です。予防薬としてインデラルを服用しているのであれば、発作治療薬としてはマクサルト以外を選択しなければなりません。

○抗てんかん薬

抗てんかん薬のデパケンは、ナトリウムイオンチャネルを阻害することで神経の過剰興奮を抑え、てんかん発作を抑制します。おそらく、この神経興奮抑制作用により、拡延性抑制の出現・進行を防ぎ、片頭痛発作を予防すると考えられます。後述の「脳過敏症候群」の治療にも用いられます。

○そのほか

抗うつ薬(三環系、SSRI、SNRI)も用いられる場合があります。また、エルゴタミン製剤は効き目が長いので、かつては予防薬としても用いられました。しかし、エルゴタミンはトリプタンと24時間併用禁忌ですから、エルゴタミンを予防に使うと片頭痛発作がおきたときにトリプタンが使えなくなります。トリプタンが片頭痛発作治療の第1選択である現在、エルゴタミンを積極的に予防に使用する意味はありません。

脳過敏症候群

すでに述べてきたように、片頭痛の基礎には脳の過剰興奮があり、片頭痛持ちの人は脳が興奮しやすくなっていると考えられています。そして、片頭痛という形であらわれなくても、脳の過剰興奮がおきている場合もあります。たとえば、加齢とともに脳の痛みに対する閾値が上ってくることにより、50歳くらいになると片頭痛が起こらなくなってくることがあります。この場合、痛みを感じなくなっただけで、脳の中では片頭痛と同じ現象が起こっており、痛みがなくなったかわりに頑固な耳鳴りやめまいが起こるようになることもあります。こういう人の場合、耳鳴りやめまいに対する一般的な治療が奏功せず、CTやMRIでも目立った異常がみつかりませんが、脳波検査をおこなうと、大脳全体の過剰な興奮が見られます。このような症状について、近年、「脳過敏症候群」という新しい病名が提唱されました。脳過敏症候群の定義は以下のとおりです。

○片頭痛などの慢性頭痛に対して長年、適切な対処を欠いたことにより発症する経年性の症状
○以下の5つの症状のうち、最低3つ以上の症状を示す
・めまい、あるいは頭鳴症状(頭の中でガンガン音がする)
・不眠
・不安
・物覚えが悪くなったような状態の高次脳機能の一時的な障害
・なんとなく毎日頭が重いような状態が続く
○検査所見として、脳波で全般的に脳全体が興奮した状態が観察できる

片頭痛の既往のある人がみんな脳過敏症候群になるわけではありません。適切な片頭痛治療がなされずに脳の興奮しやすさが放置され、薬物濫用性頭痛ないしそれに近い状態になっていたような人が高年齢になって脳過敏症候群に移行することが多いようです。

脳過敏症候群の治療には、おもに抗てんかん薬のデパケンが用いられます。デパケンにより脳の興奮をしずめることができると、めまいや耳鳴りがおさまります。また、脳過敏症候群はいわば片頭痛のなれのはてであり、片頭痛治療薬のトリプタンで耳鳴りやめまいが改善することもあるようです。

片頭痛とサプリメント

片頭痛に有効とされるサプリメントには以下のようなものがあります。
  • マグネシウム:マグネシウムは細胞膜の安定化やミトコンドリアでのエネルギー産生機能に関わっている重要なミネラルです。マグネシウムの不足は直接的に、あるいはミトコンドリアのエネルギー産生機能異常の結果として、細胞膜の不安定化を招き、細胞が興奮しやすくなります。つまり、マグネシウムの不足により、片頭痛の原因となる脳の興奮がおこりやすくなるのです。実際、片頭痛患者ではマグネシウムが不足しているというデータやマグネシウム摂取で片頭痛予防効果が出たというデータがいくつか出ていますが、マグネシウムは便秘の治療にも使われるものですので、下痢の副作用に注意が必要です。片頭痛予防としては200mg~600mg/日程度の用量で使われます。
  • ビタミンB2:ビタミンB2(リボフラビン)は生体内で活性型のFMN(フラビンモノヌクレオチド)やFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)に変換されて、ミトコンドリアでのエネルギー産生を担う酵素の一部(補酵素)としてはたらきます。したがってビタミンB2の欠乏はミトコンドリアのエネルギー産生機能の異常につながり、マグネシウムの場合と同様に脳の神経細胞の興奮しやすさをもたらすと考えられます。片頭痛予防には400mg/日というかなりの高用量が必要とされますが、これは片頭痛予防の効果を調査した研究で用いられたのがこの用量で、それ以下の用量での効果が調べられていないためです。あるいはもっと少ない量でも効果があるかもしれません。
  • コエンザイムQ10(CoQ10):いわずと知れた人気のサプリメントです。厳密にはビタミンではありませんが、「ビタミンQ」と呼ばれたりします。上述のビタミンB2と同様にミトコンドリアでのエネルギー産生過程に関わっているので、その欠乏がミトコンドリアのエネルギー産生機構の異常、その結果としての神経細胞の興奮しやすさをもたらすものと思われます。
ナツシロギク(夏白菊、feverfew):ヒナギクの一種で、欧州や北米に自生する多年草。古くから薬草として知られ、葉が炎症や頭痛、発熱の治療に用いられてきました。葉に含まれるパルテノライドが有効成分で、これが血小板からのセロトニン放出を抑制し、片頭痛の前段階の血管収縮を予防すると考えられます。推奨用量はパルテノイド換算で250μg/日だそうですが、いかんせん、天然の植物なので、個体ごとにパルテノイドの含有量にはバラツキが見られるようで注意が必要です。ナツシロギクからパルテノライドを抽出してサプリメントにした「パルテノンV」というものがあります。大阪大学医学部とベンチャー企業が共同開発したそうです。


Originally published at www.hankeidou.net on January 3, 2014.