先日から、ゆるペースで走る時には音楽を聴きながら走ることにしたのですが(『ランニング記録2021-07-17 <梅雨明け2.5時間LED with Music>』)、タイミングよく、ランニングと音楽の関係についての研究を見かけたので、紹介しておこうと思います。


まず、僕個人のケースを述べておくと、昔は音楽を聴きながらランニングをしていたのですが、だんだんとトレーニングの量が増え、レベルが上がってくるにつれ、音楽は走ることへの集中を妨げて良くないと思うようになってしまい、数年前にランニング中の音楽はやめてしまいました。しかし、最近になって、ゆるペースで長時間走る機会を増やしたところ、身体的より精神的なしんどさのほうを感じるようになり、音楽を聴きながら走れば精神的に楽なのではないかと思ったことから、ランニング中の音楽を再開したのです。


そんなわけで、精神的疲労とランニングと音楽の関係についての研究は、今の僕にとって非常にタイムリーなものなのです。


さて、その研究というのは、以下の論文です。


Lam, H.K.N., Middleton, H., & Phillips, S.H. (2021). The effect of self-selected music on endurance running capacity and performance in a mentally fatigued state. Journal of Human Sport and Exercise, in press.

doi: https://doi.org/10.14198/jhse.2022.174.16 


内容をざっくり説明すると、以下のようになります。

Study1

運動習慣のある男性9名(平均年齢22±2.6歳)が、コンピューターを使用した30分間の認知テストによって精神疲労状態を作り出した後で、インターバルトレーニングをおこなう。インターバルトレーニングの内容は、2×20mのシャトルランを10秒のアクティブリカバリーを挟んで繰り返す。シャトルランのスピードは10km/hから開始して徐々に上げていく。2回連続で設定スピードをクリアできなかったら終了とし、完了したシャトルまでの合計走行距離を結果とする。これを、自分で選んだ好きな音楽を聴きながらの場合と、音楽なしの場合とでおこなう。また、ベースラインとして精神疲労も音楽もなしで、同じトレーニングをおこなう。


結果は、

音楽なし・精神疲労あり:496±112m

音楽あり・精神疲労あり:564±127m

ベースライン:551±106m

となり、音楽ありの場合が、なしの場合に比べて、中程度に能力が向上し、精神疲労による能力低下を打ち消した。


Study2

レクリエーションランナー男女9名(男性7人+女性2人、平均年齢21.1±1.2歳)が、Study1と同じ精神疲労状態を作り出した後で、トレッドミル上で5kmのタイムトライアルをおこなった。9km/hのスピードから開始したが、参加者は速度を自由にコントロールできた。500mごとに走行距離のフィードバックがおこなわれたが、速度と経過時間は参加者に伝えられなかった。5km完走タイムを結果とする。Study1と同様、音楽ありとなしの場合でおこない、精神疲労も音楽もなしの場合をベースラインとする。


結果は、

音楽なし・精神疲労あり:24.1±3.2分

音楽あり・精神疲労あり:23.1±2.4分

ベースライン:23.4±3.5分

となり、音楽ありの場合が、なしの場合に比べて、わずかながら能力が向上し、精神疲労による能力低下を打ち消した。


以上の結果から、著者らは、好きな音楽を聴くことで、持久走の能力・パフォーマンスに対して精神疲労がもたらす負の影響を打ち消すことができ、その原因は、音楽によって自覚的運動強度(RPE:運動時に感じる自覚的な負担強度)が変化するためと考えられると結論付けています。


この研究の場合、ランニング前に発生した精神疲労に対する音楽の効果を観察しているので、たとえば、仕事で精神的に疲れたあとの夕ランのケースが、まさに当てはまります。そんな大変な日でも、好きな音楽を聴きながら走れば、仕事の疲労なんてなかったかのようなパフォーマンスを発揮できる、というわけです。しかし、ランニングそのものによる疲労に対する音楽の効果はこの研究からはわかりません。ただ、「音楽あり・精神疲労あり」がベースラインと同等という結果からすると、「音楽あり・精神疲労なし」ならばベースライン(音楽なし・精神疲労なし)をいくらか上回る、つまり、ランニング中に発生した疲労に対しても音楽が効果を発揮することが期待できるかもしれません。


僕自身の実際の体験からしても、確かに好きな音楽を聴いていると精神的疲労は軽減されると感じるので、音楽の効果は確かにあるのだろうと思います。この効果をうまく利用して、効果的なトレーニングにつなげていきたいものです。