備忘録 臨床検査値
臨床検査値の解釈
- 正常値/健常値/健常参照値:健康と思われる集団を対象として統計学的処理によって求めたもの →「健康」の定義とは?という問題
- 基準値/基準範囲:ある基準(ex 40歳台・男性・BMI25以下・・・など)を設定してこれにあてはまる個体からの測定値を統計処理する
- 集団における基準値内でもその個人にとって正常とは限らない、逆に基準値外でもその個人にとって異常とは限らない。個体間変動が大きい項目では注意が必要。そもそも基準値の設定段階で100人中5人は基準範囲から外れている
感度・特異度と予測値
- 感度:有疾患者を陽性(異常値)として判定できる識別能
- 特異度:無疾患者を陰性(正常値)として判定できる識別能
- いずれも有病率の影響は受けない
予測値は有病率の影響を受ける
- 陽性予測値
- 有病率が低いと低くなる
- 特異度が高いほど高く、感度の影響は小さい
- 特異度が高い検査が向く→rule in 検査
- 疾患を診断していくには連続検査が向く
- 陰性予測値
- 有病率が高いと高くなる
- 感度が高い検査が向く→rule out 検査
- 感度が高いほど高く、特異度の影響は小さい
- 疾患を否定するには平行検査が向く
分析前影響因子・個体間因子・個体内因子
- 適切な抗凝固剤の使用(血液検査)
- 血清と血漿の差は単にフィブリノーゲンの有無ではない→その項目に検体として適切なのはどちらか?
- 検体保存条件(血液)
- 室温放置でアンモニア・遊離脂肪酸上昇、血糖低下
- 冷蔵保存でK値上昇
- 個体間変動
- 小児:血清ALP高値
- 個体内変動
- 立位>臥位:総蛋白・アルブミン・Ca・総コレステロール
- 運動:CK・LDH・AST上昇
- 朝>夕:血清鉄・尿酸・尿素窒素
- 夕>朝:白血球数
肝機能検査
肝臓の機能と関連する検査項目
物質代謝機能
- 蛋白代謝:血清蛋白、アルブミン、血清膠質反応、プロトロンビン時間・フィブリノーゲン、血中アンモニア
- 脂質代謝:血清コレステロール
- 糖代謝
- 色素代謝:血清ビリルビン
- 関連酵素:逸脱酵素(AST、ALT、LD)、胆管酵素(ALP、γ-GT)、合成酵素(ChE、LCAT)
胆汁生成機能
- 胆管酵素:ALP、γ-GT
- 血清総コレステロール
- 血清ビリルビン
- 排泄試験:BSP試験、ICG試験(BSPは肝毒性が強くほとんど使われない)
解毒機能
- 色素排泄試験:BSP試験、ICG試験
血液凝固因子産生機能
- プロトロンビン時間、フィブリノゲン
肝機能検査で何を判定するか
- 肝細胞に障害があるかどうかを判定:逸脱酵素活性(AST、ALT、LD)
- 胆汁うっ滞・閉塞性肝障害があるかどうかを判定:胆管酵素(ALP、γ-GT)、ビリルビン
- 肝臓にどの程度の予備能があるかを判定:総蛋白、アルブミン、プロトロンビン時間、ICG試験
酵素活性による損傷臓器の推測
肝臓:(上昇)AST、ALT、LD、ALP、γ-GT (低下)ChE、LCAT
心臓:(上昇)AST、LD、CK
膵臓:(上昇)アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ
前立腺:(上昇)酸性ホスファターゼ
細胞からの酵素逸脱の機序
エネルギー代謝障害→細胞内ATP量減少→ATPイオンポンプの機能低下→細胞内外イオン濃度差の低下→細胞膨化→細胞の一部が嚢状に突出→フィラメント伸長により小孔があく→低分子量物質の逸脱→膜の透過性亢進
酵素の臓器内分布
AST:心臓>肝臓>骨格筋・腎臓 ほとんどの臓器に存在。mAST(ミトコンドリアAST)は重症の指標になる
ALT:肝臓>>>その他の臓器 肝臓に特異的
LD:心臓>>骨格筋・腎臓>肝臓 ほとんどの臓器に存在。アイソザイム分析により臓器を推定できる。心筋梗塞→LD1>2 肝臓→LD5
CK:骨格筋>>>心臓>脳
ALP(アルカリホスファターゼ):骨芽細胞、胆管上皮細胞、小腸、胎盤に存在 閉塞性肝障害では①逆流性に上昇 ②胆汁うっ滞による胆管上皮細胞の刺激のため酵素誘導で産生上昇 の2つの理由で上昇する。 小児では骨芽細胞活性化のため成人の3~5倍の高活性
γ-GT(γ-グルタミルトランスフェラーゼ):腎臓・膵臓・肝臓・脾臓・小腸・脳・心筋に存在 閉塞性肝障害では逆流性と酵素誘導により上昇。アルコール性肝障害では著明に上昇するが、10~20日の禁酒で半減する(下がらない場合はアルコールが原因ではない)
酵素活性と肝機能障害の関係
逸脱酵素:肝細胞障害により細胞中の酵素が血中に逸脱し、酵素活性の上昇を示す。AST、ALT、LDなど
胆管酵素:胆管上皮に存在し、胆汁うっ滞による内圧上昇で酵素の産生が亢進し、酵素活性の上昇を示す。ALP、γ-GTなど。
合成酵素:肝臓により合成される酵素のため、肝機能障害により合成量が減少し酵素活性が低下する。ChE(コリンエステラーゼ)、LCAT
血清蛋白の分類と肝機能
- 60%がアルブミン、20%がγ-グロブリン(免疫抗体)、20%がα-、β-グロブリン
- アルブミン:肝臓で合成。膠質浸透圧の維持、ビリルビンや薬物、脂肪酸などの輸送、全身へのアミノ酸供給などをになう。肝障害により低下→膠質浸透圧低下→腹水
ビリルビン
- ヘモグロビンの分解産物
- 脾臓から肝臓へアルブミンと結合して運搬される(間接ビリルビン)
- 肝臓でグルクロン酸抱合を受け(直接ビリルビン)、胆汁中に分泌され、胆管を経て十二指腸に排泄されてウロビリノーゲン→ステルコビリノーゲンとなって便を着色させる。
- 黄疸:ビリルビン値の上昇。溶血性黄疸・肝細胞性黄疸・閉塞性黄疸に分類
- 溶血性黄疸:間接ビリルビンが上昇
- 肝細胞性黄疸・閉塞性黄疸:直接ビリルビンが上昇
プロトロンビン時間(PT)
血管外血液凝固因子(Ⅱ、Ⅴ、Ⅶ、Ⅹ)はビタミンKの存在下で肝臓で合成される。しかも血中半減期は短時間なので、肝臓での蛋白合成能をリアルタイムに反映する=肝機能検査としての凝固能検査
腎機能検査・尿検査
尿の産生
- 健常成人の腎血流量:約1000mL/min
- 糸球体濾過率(GFR):100mL/min→原尿
- 原尿の水分の99%は尿細管で再吸収→1%が尿として排泄→よって1mL/min = 60mL/hr = 1440mL/day
尿検査項目
尿量
- 通常1.5L前後
- 乏尿:500mL以下
- 無尿:100mL以下
尿比重
- 通常1.015前後
- 等張尿:比重が1.010前後に固定(一時的であれば問題ない)=腎不全
pH
- 4.0~8.0で変動
- アルカリ尿:細菌感染症の可能性(尿中の尿素を分解してアンモニア産生)
尿蛋白
- pH指示薬の蛋白誤差を利用して試験紙検査
- 通常でも~150mg/日までの排泄はある(主に低分子蛋白)
- グロブリンは検出しにくい
尿糖
- GOD-POD発色系を用いた試験紙検査
- 血糖170~180mg/dL以上になると尿中に出現
- アスコルビン酸などの還元剤で偽陰性に
ウロビリノゲン
- ジアゾ反応(p-メトキシベンゼン)による試験紙検査
- 弱陽性(±)が正常
- 陰性→閉塞性肝疾患
ビリルビン
- ジアゾ反応(p-ニトロベンゼン)による試験紙検査
- 尿中出現は直接ビリルビン(間接ビリルビンはアルブミンと結合しているので濾過されない)
- 光に弱い→長時間の光暴露で偽陰性
ケトン体
- ニトロプルシドナトリウムを用いた試験紙検査
- アセトン・アセト酢酸・β-ヒドロキシ酪酸→糖尿病のコントロール指標
潜血
- ヘモグロビンのペルオキシダーゼ様作用を検出する試験紙検査
亜硝酸塩
- 細菌の硝酸塩還元能を利用した試験紙検査
- 105/mL以上で陽性
白血球
- 白血球のエステラーゼ活性を検出する試験紙検査
- 10/μL以上で陽性
沈渣
- 顕微鏡検査
- 円柱:尿細管の病変
- 赤血球:尿路の出血、炎症、結石、腫瘍など
蛋白尿について
健常者:20~80mg/日の微量蛋白を排泄
病的蛋白尿:150mg/日以上の蛋白を尿中に排泄。糸球体での蛋白透過性や近位尿細管での蛋白再吸収に異常
生理的蛋白尿(腎・尿路系や循環器系に障害がない)
- 体位性蛋白尿:起立や脊柱前弯による腎静脈の圧迫が原因
- 運動性蛋白尿:激しい運動後の一過性の蛋白尿。運動による糸球体濾過量・腎血漿流量の減少による糸球体血管の血液うっ滞・内圧上昇が起こり、血管壁の透過性が亢進する
腎前性蛋白尿
- 腎実質や尿細管には形態的・機能的異常はない
- 血漿蛋白の増加が原因
- Bence Jones蛋白:免疫グロブリンのL鎖
- ヘモグロビン尿:アルブミンより糸球体での透過性は高いが通常尿細管で再吸収される。再吸収能以上に大量に排泄された場合に尿中に出現
- ミオグロビン尿:筋肉中に含まれる低分子蛋白。筋肉の破壊により大量に血中に流出し、糸球体を透過して尿中へ出現
腎性蛋白尿
- 糸球体性蛋白尿
- 糸球体の透過性亢進により蛋白が濾過される
- 糸球体腎炎、ネフローゼ症候群
- 尿細管性蛋白尿
- 尿細管による低分子蛋白の再吸収が障害される
- カドミウム・鉛中毒、Fanconi症候群、腎盂腎炎、Wilson病
- 二次性の腎性蛋白尿
- 高血圧、心疾患、甲状腺機能亢進症
腎後性蛋白尿
- 尿路の炎症、結石、腫瘍などによる蛋白尿
血液による腎機能検査
血中尿素窒素(BUN)
- 肝臓でアンモニアを尿素に合成して無毒化→血中へ→糸球体で濾過されて尿中へ排泄
- 腎機能低下で血中濃度上昇
- 腎機能低下以外でも、消化管出血→蛋白の異化の亢進でも上昇
血清クレアチニン
- 筋肉中のクレアチンから生成→筋肉から血中へ→糸球体で濾過されて尿細管で再吸収・分泌されず尿中へ排泄 = 糸球体濾過率(GFR)を反映
- 腎機能低下で血中濃度上昇
- 筋肉量に比例するので、筋肉量の多い人、逆に少ない人(高齢者など)は値の解釈に注意が必要
クレアチニンクリアランス
- 血清クレアチニンは軽度の腎機能低下ではほとんど上昇しないが、クリアランスを求めれば軽度腎機能低下でも明瞭に変化する
- Ccr=U・V/P×1.73/A
- Ccr:クレアチニンクリアランス
- U:尿中クレアチニン濃度(mg/dL)
- V:尿量(mL/min)
- P:血漿中クレアチニン濃度(mg/dL)
- A:体表面積(m2)
- 40歳以上では10歳ごとに約10%低下
- 血清クレアチニンとクレアチニンクリアランスは反比例関係
- 軽度の腎機能低下ではクレアチニンクリアランスが鋭敏な指標、重度の腎機能低下では血清クレアチニンが鋭敏な指標となる→併用が必要
β2-ミクログロブリン・α1-ミクログロブリン
- 低分子蛋白→糸球体で濾過され近位尿細管で再吸収される
- 糸球体濾過能の低下により血中濃度上昇
- 近位尿細管障害で尿中排泄が上昇
- β2-ミクログロブリンはHLAの一部→腫瘍によっても血中濃度上昇=非特異的な腫瘍マーカーとしても測定
コメント
0 件のコメント :
コメントを投稿