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新型コロナウイルス(SARS-CoV2、2019-nCoV)の発生源と名前をめぐって、米中両国がつばぜり合いを続けています。

中国政府は以前から、「ウイルスの発生源は中国とは限らない」(つまり他国から持ち込まれたウイルスが中国で感染拡大した)という立場をとっていて、習近平国家主席から「発生源をさかのぼれ」という命令が出ているという話です。大国の面子のため、「ウイルスの発生源」という汚名は受け入れがたいということなのでしょうが、もし新型コロナウイルスが中国以外の国で誕生したことが判明したからといって、中国で感染爆発が起き、そこから世界中へ拡大していったという事実は変えようがありません。

米国のポンペオ国務長官らが「武漢ウイルス(Wuhan virus)」「武漢コロナウイルス(Wuhan coronavirus)」という呼び名を続けていることがさらに中国政府の神経を逆撫でしており、中国外務省はこれを「中国に対する中傷だ」と非難しています。さらに趙立堅副報道局長がツイッターで「武漢での流行をもたらしたのは米軍かもしれない」という何の根拠があるのかわからない書き込みをし、当然、米国はこれに反発して、双方の応酬が止まりません。

「武漢ウイルス(Wuhan virus)」「武漢コロナウイルス(Wuhan coronavirus)」という呼び方自体は、トランプ政権が使い始めたものではなく、従前から米国のメディアでは使われていて、Mediumの記事でもよく見かけました。エボラウイルスの「エボラ」も「エボラ川」という地名由来ですし、「ザイールエボラウイルス」「スーダンエボラウイルス」などには国名がついていますから、ポンペオ国務長官らからすれば「いったい何が問題なのか」といったところでしょう。

とはいえ、病名やウイルス名に自分の地域や国の名前が使われるのは気持ちのいいものではないのは確かで、MERS(Meddle East Respiratory Syndrome:中東呼吸器症候群)のときは中東各国から抗議の声が起こりました。そういう経験を踏まえてかどうか、今回は、WHO(世界保健機構)が新型コロナウイルス感染症の正式名称を「COVID-19(=COrona VIrus Disease 2019)」、ICTV(国際ウイルス分類学会)がウイルスの正式名称を「SARS-CoV-2(SARS Corona Virus type2)」と決定しており、いずれも「China」や「Wuhan」という言葉は使っていません。ただ、病名とウイルス名を別々の機関が命名したので、統一性に欠ける感は否めず、ウイルスが「SARS-CoV-2」なら、病名は「SARS-2」にすべきなのではないかと思ってしまいます。なお、ICTVが正式名称を決定する前は「2019-nCoV」という名称が暫定的に使われていました。こちらのほうが「COVID-19」という病名とは相性はいい気がします。

もし、ウイルス名を「武漢コロナウイルス(Wuhan coronavirus)」と命名したとすれば、それに対応する病名はどうなるのかと妄想してみると、SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome:重症急性呼吸器症候群)やMERSにならえば、「WARS(Wuhan Acute Respiratory Syndrome:武漢急性呼吸器症候群)」になってしまいます。「WARS=戦争」なんてさすがに縁起が悪すぎて中国でなくても反対する声が多いでしょうが、現在のパンデミックの状況はまさに戦争に近い状況を呈していると言えなくもありません。ただし、あくまで戦争の相手はウイルスだということを忘れてはいけないと思います。今回のパンデミックとそれによる経済危機が、人と人、国と国との「WARS」につながる事態は絶対に防がなければいけません。