消毒によるマスクの性能低下はどのくらいか
消毒によるマスクの性能低下実験
マスクが入手困難な状況がいまだに続いています。この状況がいつまで続くかも定かでないため、できるだけマスクを節約しようと、消毒・洗浄しながら繰り返し使っている方も多いでしょう。布マスクやガーゼマスクはともかく、不織布で作られたサージカルマスクは洗浄によって性能が低下することは広く知られていることと思いますが、具体的にどのくらい低下するのかを定量的に明らかにしたデータというのはあまり見かけません。しかし、最近、国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンターでの実験結果が日経メディカルに緊急投稿されました。
実験の主眼は医療現場で使用されるN95マスクのほうなのですが、サージカルマスクについても実験されているので、一般にも参考になるデータだと思いますので、紹介しておきたいと思います。
実験方法
実験方法は、密閉空間内にネブライザーでウイルスを噴霧し、一定時間後にその空気を回収する際に、回収部分にフィルターとして調査対象のマスク素材を置くことで、それぞれのマスク素材が、マスク素材を置かない場合と比べてどれだけウイルスをブロックできたかを測定するというものです。ネブライザーによる噴霧は、感染者から排出された飛沫・エアロゾルと思えばいいでしょう。それらの空中浮遊粒子は一部は地面に落ちますが、一部は浮遊を続け最終的に回収部分にやってきます。回収部分にマスク素材を置いてあれば、マスクによって捕捉された分だけ回収される粒子・ウイルスは少なくなるというわけです。つまり回収部分が我々の鼻や口というわけです。
マスク素材としては、N95マスクと、不織布サージカルマスク、そして、それぞれをアルコール消毒(75%アルコールをたっぷり噴霧し、37℃で2時間以上乾燥)したもの、UV(紫外線)消毒(強力な蛍光管UV消毒装置のUVライトに20分間暴露)したもの、を使用しています。
実験結果
実験結果として以下のデータが示されています。回収された空中浮遊粒子の中の活性インフルエンザウイルスの量(マスク素材を置かない場合を100とする)
消毒前N95マスク:1アルコール消毒後N95マスク:35
UV消毒後N95マスク:8
消毒前サージカルマスク:4
アルコール消毒後サージカルマスク:12
UV消毒後サージカルマスク:6
対照(マスクなし):100
回収された空中浮遊粒子自体の量(マスク素材を置かない場合を100とする)
※アルコール消毒後N95マスクについては3回の独立実験を実施消毒前N95マスク:0.2
アルコール消毒後N95マスク:14.1 16.1 13.8
UV消毒後N95マスク:1.1
消毒前サージカルマスク:3.7
アルコール消毒後サージカルマスク:9.9
UV消毒後サージカルマスク:6.3
対照(マスクなし):100
2つの実験とも、数字が小さいほどブロックする能力が高いことを示しており、消毒によって数字が大きくなるということは、それだけ性能が低下したことをあらわしています。N95マスクのアルコール消毒による性能低下は衝撃的ですが、一般の人が普段N95マスクを着用することはないでしょうから、ここではサージカルマスクのほうに注目してみたいと思います。
性能低下をどう評価するか
結果を見ると、アルコールを噴霧して乾燥させただけで、サージカルマスクを通過する飛沫やエアロゾル、ウイルスの量は、消毒前と比較して2~3倍に増えることがわかります。これは、アルコールによってサージカルマスク表面の防水構造を破壊するとともに、粒子の捕集性能に寄与している静電気を弱めてしまうからと考えられます。この実験では調べられていませんが、界面活性剤にも同じ作用がありますし、水単独でも静電気は弱まるようです。さらに手で強くもみ洗いしてしまえば繊維の構造も破壊され、一層の性能低下をきたすことは容易に想像できます。実験結果では、アルコールほどではないものの、UV消毒によっても性能が低下しています。これはUVによって、不織布の材料である高分子の酸化分解が促進されて構造が破壊されるからだと考えられます。また熱によっても同様の変質が生じるため、性能低下は避けられません。
とはいえ、実験によればアルコール消毒によって性能が低下しても、90%前後のウイルスはブロックできているので、見ようによっては許容範囲と言えます。少なくともマスクをしないよりははるかにましですし、実験はされていませんが、ガーゼマスクよりもましである可能性が高いと思います。
消毒や洗浄を繰り返せば、その分だけ性能は低下していくでしょうから、際限なく再使用はできませんが、消毒・洗浄の方法に気を付けながら、数回再使用する程度であれば、現在の状況においては、次善の策として許容できるのではないかと思います。もちろん、状況が許すのであれば、1回ごとの使い捨てが「最善」であることは言うまでもありませんが、それが可能になるのはいつのことか、全く見通しが立ちません。
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